音のイメージを描くと、時間が凍りついたような静けさと、その後に訪れる躍動感を音でどう翻弄するかが一番の肝だと思う。『
時間停止勇者』というテーマなら、サントラ制作陣は“静寂の重さ”と“動き出す解放感”という二つの要素を往復させる選曲をまず考えるだろう。音そのものに“時の感触”を持たせるために、メトロノームや時計の秒針音を抽象化したサウンドデザイン、リバーブで伸ばしたピアノやハープ、時間を引き延ばすようなグラニュラー合成が多用されるはずだ。逆に勇者が動き出す場面ではブラスやストリングスの力強いユニゾン、エレクトロニックなビートが一気に加わってテンポとダイナミクスが跳ね上がる。過去の良作、たとえば『クロノ・トリガー』や『STEINS;GATE』の時間表現を参考にしつつ、独自の音世界を築く流れになると想像している。
私ならトラック構成をこう組む。オープニングはオーケストラとシンセを混ぜたハイブリッドで、勇者のテーマをモチーフとして提示する“序章”。その中に小さな時計のモチーフ(ピチカートや高音のベル)を織り込むことで、後の“時間停止”パートに繋げやすくする。時間停止の場面専用トラックは極力音数を絞ったアンビエント寄りで、長いサステインや不協和音を持つパッド、遠くで鳴る鐘の残響が主役。心臓音や呼吸音を低めの周波数で重ねることで“生の存在感”を保ちつつ、空気が止まった感じを出す。停止中の緊張を高めたい時には、少しずつフェーズがずれるアルペジオや逆再生サンプルを入れて“不安の時間”を演出する。
再開時やバトル曲は対照的にリズムを前に出す。ドラムのスネアやタム、エレキギターのリズムストロークにブラスや高揚するストリングスを載せ、勇者の成長や決意を表すメロディをフルに展開する。感情的なソロ曲はピアノやヴァイオリンで、時間停止によって失ったものへの哀愁を丁寧に描くミニマルなアレンジが映える。ラストに向けては“時間の歯車”が徐々に噛み合う効果音的なモティーフを取り戻す形で、最初の序章の主題を壮大に回収するフィナーレを用意するのが気持ちいい。個人的には、サントラの中に“音のない曲”を一つ入れてみてほしい。完全な無音ではなく、極めて低レベルのノイズと一つだけ鳴る鐘の残響――そういう一瞬が物語の重みを増すからだ。
最終的には、劇伴は視聴者の身体感覚に直接働きかけるべきで、時間が止まる“質感”を聴覚で体験させることが成功の鍵になると考えている。静と動、空虚と充溢を行き来するサントラは、作品そのものの記憶に強く結びつくはずだ。